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日本企業の労働生産性を上げるために

※この記事では筆者が専門職大学院入試に向けて研究テーマを設定し、独自に調べたことを論文風にまとめました。院試の計画書や経済政策の提言として参考にしてください。

はじめに

図1 2019年のOECD各国の労働生産性(一人当たりGDP/一人当たり平均労働時間)
(出典:OECD)

 図1より日本企業の労働生産性は世界的に見て高いとは言えません。そもそも労働生産性とは付加価値を従業員数(正確には従業員数×労働時間)で割ったものであり、経営の効率を簡単に表したものです。

図2 企業規模別労働生産性の推移
出典:「2021年版」中小企業白書

 これはよく伸び悩んでいる賃金と関連付けられるため、図2のように労働生産性も停滞していることは国民の生活にも悪影響を与えていると言えます。しかし、経済産業省補助金、税額控除の政策が実施されていても未だに改善が進んでいません。そのため、早急に解決策を講じるべきだと考え、本稿では労働生産性の向上に必要な対策を検討します。最初はIT化、その後は非正規雇用の賃上げ、中小企業削減について検討した後、内部留保に触れます。そして、この問題の解決は減税などで日本経済を回すしかないということを主張します。

 目次は以下の通りです。

IT化の促進

図3 日本企業のIT導入状況

 労働生産性の向上のための解決策として最初に見つけたことはIT化です。このIT化は経済産業省がDX(デジタル・トランスフォーメーション)として促進しようとしていますが図3のように全然進んでいません。

 日本でIT化が進まない原因として、濱野(2019)によると企業側のビジネスモデルが不明確なこと、コスト・人材不足などがあります。そのため、島谷(2020)はIT化を進めるためには経営者が戦略を見直すべきだと指摘しています。しかし、経営者の意識を変えることは政策的に難しいと思うので、本稿ではIT化の促進は難しいとして、別の方法を検討することにしました。

正規雇用の賃上げ

 デジタル化が難しいなら、非正規雇用の賃上げで直接的に生産性を上昇させようと単純に思いついたので、次はこれについて考えていきます。まず非正規雇用の賃金は正規雇用より低いと当たり前のように言われていますが、これは玄田(2017)によると雇用側が就労の柔軟さや義務・責任の違いだけでなく、技能や資質の違いを正当化しているからだそうです。そのため、玄田(2017)は非正規雇用者に人的資本投資が必要だと指摘していますが、深尾(2016)は「非正規雇用は、熟練を蓄積できない可能性」があると述べているため、不可能ではないかと思います。

 他の方法として、欧州で成功している同一労働同一賃金があります。しかし、八代(2018)によると欧州では職種・技能ごとに賃金率で決定できる職種別労働市場が形成されていたり、職種別労働組合が組織されていたりと日本の労働市場とは形が違うから、日本で導入するには課題があるようです。これらのことを踏まえて、非正規雇用の賃上げは無理だと判断しました。

中小企業削減

 次に検討したことはアトキンソン(2020)の中小企業削減です。結論を言うとこれは反対です。まず、彼によると日本は中小企業がほとんどで非効率になっているから、M&Aで数を減らせと主張しています。また、経営者の質が低いと指摘しています。そこで、日本の中小企業は本当に多いのかをOECDのデータを使い、人口あたりの企業数で比較することにします。

図4 人口当たりの中小企業数(2019年)
出典:OECD

 図4より、人口で均すと日本は中小企業が少ないということが分かります。つまり、中小企業が多いわけではないのに、労働生産性が低いのです。単純に付加価値が低い企業が多いということでしょうか。よって、アトキンソンの中小企業が多いから労働生産性が低いという仮説は正しくないという事になります。また、日本企業の内、中小企業の割合は99%ですが、この割合は世界的に見ても普通です。

 ここまでの議論を整理すると、1つ目はIT化を進めるには経営者が戦略を見直す、2つ目は非正規雇用の賃金が低い理由は企業が正当化しているから、3つ目は日本の経営者は質が低いとありました。ここで筆者が注目したことは経営者に何か問題を抱えているではないかということです。次の節では経営者の問題をネットで検索して、出てきたことをまとめています。

内部留保の蓄積

図5 内部留保(繰越利益剰余金)の推移
出典:企業法人統計

 「経営者 無能」などで検索し、最初に分かったことは図5のように内部留保が毎年積みあがっていることです。内部留保とは売上から費用を引いた利潤の内、会社内の純資産として回った分の事を言います。

図6 金融保険業を除いた売上高(右軸)と従業員給与(左軸)、当期純利益(左軸)の推移
出典:企業法人統計

 さらに、図6を見ると、バブル崩壊以降、売上高が横ばいである状態で給料を減らし、純利益を増加せていることが分かります。研究を進めていた当時はここから、労働生産性が上昇しない一番の原因は給料の抑制による内部留保の増大だと考えていました。まずこうなった背景には脇田(2014)によると97~98年の北拓・山一から長銀に至るまでの銀行危機の影響があるということです。それ以降、銀行は企業に貸し渋るようになったから、企業はリスクに備えるために内部留保を蓄積する構造ができたらしいです。内部留保の増大をなんとかするために、当時は需要を増やすために少子化対策正規雇用の女性を離職から防ぐことや内部留保に課税、公的資金の注入、最低賃金の引き上げ、減税を考えていて、内部留保は悪だと決めつけていました。ただ、公的資金は後に悪いショックを起こすと言われているし、少子化対策による需要創出は時間がかかる、課税は内部留保が多いから減らそうという問題を直接解決策にしているから的外れだと言えます。そして最低賃金について、森川(2019)は大幅な引き上げは雇用にマイナスの影響を持つ可能性を示唆するものが多いと述べています。また、中小企業白書では売上が増加した後、内部留保も増加することで借入の余力が上昇し、投資余力も上昇することで事業拡大が出来るという好循環があると解説していたり、金融機関が貸し出す際の審査に自己資本比率(自己資本/総資本)が見られたり、野口(2018)によると内部留保の蓄積は資本主義の根本原理だと言っていたりと内部留保にもメリットがあると理解できました。だから、内部留保の増大を敵にせず、直視してそのためにどうすべきかを考えていく必要があるのではないでしょうか。

 今考えると、失われた30年という低成長が内部留保の増大を引き起こしているのではないかと思います。景気が良くないから、企業の売上が上がらない。だから、人件費を減らして、利益を確保しようという動きが日本企業全体で起きているのでしょう。そのため、労働生産性が伸びず、賃上げも上手くいかず、非正規雇用は増えて、社内投資はする気がないと考えることできます。それなら、この状況をどう打破すれば良いのかというと、消費税などの減税で経済を回すしかないでしょう。なぜ減税かと言うと、経済を回す主体である国民への反映が早いと考えているからです。日本企業の課題を解決するために筆者独自であれこれ考えてきましたが、他に思いつく簡単な方法はありません。日本ではバブル崩壊以降、大規模な景気対策をしたことがないので、財政支出で経済を動かし、企業が稼げるようになり、労働者にパイが行き渡り、さらに、経済が活発化するというような政策依存から自立した好循環を生み出すことが過去30年間、そしてこれからも求められるでしょう。経営者が無能だというのは違います。

 当時は内部留保が違うと考えたあと、資金調達の方法を株式やクラウドファンディングなどで多様化して企業的な経営を促進できないかを検討していました。なぜなら、株式の発行で経営に株主などの外部の人間が関わることで、家族経営から企業的な経営に切り替わり、効率を良くする誘因になると推測したからです。ただ、これは企業に元から魅力がないとできないことです。ここでこの研究は行き詰まり、何を勉強して調べたらよいか迷っていました。産業のイノベーションを1人の学生で提案することは超難しいです。

むすび

 労働生産性の低さをなんとかするために、IT化、非正規雇用の賃上げ、中小企業削減を考えるも簡単には無理だから、経営者の問題で調べて内部留保が出てきて、当時はこれが根本的な問題だと気分が湧き上がっていましたが、これはただの結果論です。労働生産性を上げるという産業のイノベーションみたいなものを1人の独学で考えることは無謀なので、たくさんの専門家を結集して、得た方法を長い時間かけて全企業に取り組んでもらうでもしないと無理でしょう。つまり、簡単に少しでも早く生産性を上げたいなら減税して、公債で政府支出増やして、マクロ経済を回すしかないということが筆者の意見です。これなら日本の国会で出来ますよね。労働生産性の停滞はマクロ経済の停滞のせいです。国債の償還は好景気によるインフレが起きてから増税して返せばよい。

参考文献

  1. 玄田有史『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』慶応義塾大学出版会株式会社、2017年 

    人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

  2. デービッド・アトキンソン『日本企業の勝算 人材確保×生産性×企業成長』東洋経済新報社、2020年

    日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長

  3. 鳥谷薫乃「日本の中小企業におけるクラウド・サービス導入の成功条件に関する考察-デジタルトランスフォーメーション促進に向けて-」『コンサルティングプロジェクト』、2020年、1-33頁:

     https://www.ipp.hit-u.ac.jp/consultingproject/2019/CP19Shimatani.pdf
  4. 野口旭『アベノミクスが変えた日本経済』株式会社筑摩書房、2018年

    アベノミクスが変えた日本経済 (ちくま新書)

  5. 濱野敦「中小製造業へのIoT導入における成功要因の分析」『コンサルティングプロジェクト』、2019年、1-25頁:

    https://www.ipp.hit-u.ac.jp/consultingproject/2019/CP19Hamano.pdf

  6. 深尾京司「日本の労働と生産性」『第16回ハイライトセミナー「生産性向上と働き方改革」における報告用資料』、2016年、1-37ページ:

    https://www.rieti.go.jp/jp/events/16111701/pdf/fukao.pdf

  7. 森川正久「最低賃金と生産性」『RIETI Policy Discussion Paper 19-P-012』、2019年、1-18頁:

    https://www.rieti.go.jp/jp/publications/pdp/19p012.pdf

  8. 脇田成『賃上げはなぜ必要か 日本経済の誤謬』株式会社筑摩書房、2014年

    賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

  9. OECDOECD Data』:https://data.oecd.org
  10. 財務省『企業法人統計』:https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/index.htm
  11. 中小企業庁『「2021年版」中小企業白書https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho.html

編集後記

 こんな無謀な課題をよく筆者一人で調べて、真面目に検討したなあと思います。ただ、グラフから考察してるだけで、回帰分析みたいな経済学らしいことをやっていないので、浅い研究なのかと思いました。

 また、補足ですがコブダグラス型生産関数で労働生産性を表すと一人当たり資本量が影響していることが分かります。機械などを増やして、労働者を減らした分、一人当たりの賃金は上がりそうなので、イメージ通りだと思います。ただ、このためには先ほど言ったように売上と内部留保の増加が必要なので、最初の売上を増やすきっかけとなる経済政策(減税など)が必要だと思われます。

 もし、これから大学院入試に向けて、研究テーマを定める人は産業のイノベーション系は避けるようにした方がよいかもしれません。中途半端になります。地方などに的を絞った課題にすると深掘りしやすいのではないでしょうか。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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